『チェーホフとの恋』の書評2

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コ ー ド
ISBN4-89642-122-1
書  名
チェーホフとの恋
著  者
リディア・アヴィーロワ 著 / ワルワラ・ブブノワ 絵 / 小野俊一 訳 / 小野有五 解説他
書  評
タイトル
“当事者”がつづる文豪の素顔
評  者
聖教新聞(尚)
掲載誌紙
「聖教新聞」
2005年4月13日(水曜日)
ロシアの文豪チェーホフが没して、昨年でちょうど100年。チェーホフ作品の評価は今なお高い。その衰えない人気を物語るように、文豪との交流の顛末をつづった本が半世紀ぶりに再刊された(原題は『私の人生のなかのチェーホフ』)。
著者リディアはチェーホフより4歳年下の女流作家。本書は二人が15年間に交わした手紙と彼女の回想から成る。作品の中では男女の機微を描いた文豪が、実人生ではどのような恋をしたのか。あるいは文豪への彼女の恋はどう受け止められたのか。ここには、親しい女友達が見た“素顔のチェーホフ”がいる。
肺結核により44歳で死去したチェーホフは、晩年まで結婚しなかった。恋愛はしても結婚はしたくない。そんな彼にとって、既婚者のリディアはある意味、安心して付き合える相手だった。家庭がありながら愛を伝えるリディアと、あくまで距離を置くチェーホフ。
彼女からの告白のエピソードは、そのまま戯曲『かもめ』の場面として使われた。初演を前に、文豪は言う。「よく注意して台詞を聞いて下さいよ。わたしはあなたに対するご返事を舞台の上からするでしょうから」
ただ一人の女性へのメッセージを脚本に忍び込ませたチェーホフ――。リディアの恋は実ることなく、彼は舞台女優と結婚してしまう。
首都ペテルブルクの賑わいや文化人たちの社交の様子。出版界の動きや人間模様。女流作家が描く当時のロシアの情景も臨場感に溢れ、味わい深い。また訳者の子息・小野有五氏による解説が、本書の魅力を一層深いものにしている。(尚)


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未知谷